ただ床を貼るだけじゃない、安全な吹き抜けの塞ぎ方
はじめに
家を建てるとき憧れだった吹き抜け!
いざ住んでみると生活形態が変わったりして
『吹き抜けを塞ぎたい』
というご相談をうけることがあります。
こんにちは、かとう建築設計事務所(株) 代表の加藤です。
吹き抜けを塞ぎたい理由は、部屋が暖まらなかったり、上下階の音がうるさいというものや生活形態が変わって新しく部屋がほしくなったり、その家庭によって様々です。
ここではそんな吹き抜けを実際に塞ぐにはどうしたら良いかを実務で住宅を普段から設計している一級建築士の立場で解説していきます。
このような方におすすめ
- 吹き抜けを塞ごうと思っている方
- 増築するときの関連する法令を知りたい方
- 家を建てるとき、吹き抜けを採用しようか迷っている方
吹き抜けを塞ぐのは簡単?
吹き抜けを塞ぐのなんて簡単じゃん。ただ床を貼ればいいだけでしょっと思うかも知れませんが、さもあらず。
場合によっては建物の耐震性を下げることになったりと注意しなくてはいけないことが多いです。
実際、吹き抜けを塞ぐ場合、行政への申請が必要な場合があったり耐震性を見直さなくてはいけなかったり、その他関連する法令は結構ありそのすべてに適合させたりと検討することは多いです。
- <吹き抜けを塞ぐことで必要になること>
- 行政への申請や申告
- 耐震性の見直し
- 関連法令への対応
申請関係で必要なこと
建築確認申請
吹き抜けを塞いで床を貼ると建築基準法上の『増築』になります。
床を貼る面積が6帖(10㎡)以上の場合、建築確認申請などの申請が必要になってきます。
(防火地域、準防火地域においては面積関係なく建築確認申請などの申請が必要)
また、建てた時から建築基準法が変わっている場合、(増築する工事に関係しなくても)基本的に家全体を現行法に合わせないといけなくなります。
例えば2000年以前に建てられた住宅であれば、2000年に耐震基準が変わっているため家全体の強度も現行法に合わせて強くしないといけなくなります。
家全体で強度計算をした結果、壁を壊して耐震補強をしないといけないケースもあります。
登記と固定資産税
吹き抜けを塞ぐと床面積が増えるため、建物の表題登記を変更しなくてはいけません。
未登記のままですと、相続や売買のとき直ぐに所有権の移転ができなかったり不具合が生じます。
また、床面積に応じて固定資産税も変わってくるので増築して床面積が変わったときには市区町村の資産課など担当部署にいって床面積が増えたことを申告しなくてはいけません。
その他諸申請
市街化調整区域であれば、建築確認申請を出す前に都市計画法の許可が必要になることがあります。
また、長期優良住宅の認定をとっていたら変更申請が必要になります。
その他、諸申請が必要なケースがあるので所管行政庁やお近くの建築士さんに確認してみてください。
吹き抜けを塞ぐと耐震性能が下がる?!
なぜ耐震性を見直さないといけないの?
2階や3階が重くなれば、地震がきたとき建物の揺れは大きくなります。
吹き抜けを塞いで床を貼る場合、実際に床を貼った分の重さだけではなく、そこにモノを置くカモ知れないと見越した分の重さも考慮します。
具体的には1畳に対しておおよそ200kg以上重くなったと見越します。
6畳分塞いだら、6×200=1,200kg=1.2トン以上
これだけ2階が重くなったと思うとスゴいですね
重くなったけど今の家が地震の揺れに耐えられるのか・・・耐震計算をして建物強度が不足していないかを確認しなくてはいけません。
強度不足の場合はどうするの?
実際、6畳分の吹き抜けを塞いで部屋にする場合、2階に約138cm分の壁(※1)が必要になってきます。もし、今のお家に耐震性の余力がない場合はこの分が強度不足になります。
強度が不足していた場合、建物を補強することになります。
具体的には、壁や床、天井を壊して筋違いなどを入れた耐力壁を追加したり、金物などで補強する必要があります。
また、屋根が瓦など重い材料がのっていた場合、屋根をガルバやスレートなど軽い材料に変えてあげることで間接的に耐震性能を上げることもできます。
2階が重くなった分、別のところで軽くしてあげるか建物自体の強度をアップさせるかどちらか又はその両方を選択するようになりますがいずれにしても結構な費用と時間がかかります。
※1:『138cm分の壁』とは『138cm分の耐力壁』を指し、
『138cm=必要壁量21cm/㎡(令46条重屋根の必要壁量)×10㎡(床面積)÷2.0(シングル筋違いの壁倍率)×1.32(安全率:静岡県の場合)』
関連法令への対応
床面積を増やすと建築基準法などの関連する法律に適合しなくなるケースがでてくるかも知れません。
関連する法律は地域や家の大きさなどによって違うので正確なところはお近くの建築士さんなどにお尋ねください。
ここでは代表的なものだけ記載させてもらいます。
- 容積率
- (対象)すべての家
(概要)
敷地面積に対する延べ床面積の割合を容積率といいます。容積率は建っている地域などで決まっていてオーバーしてはダメです。
吹き抜けを塞ぐことで延べ床面積が増えますので、容積率が規定値を超えていないか確認しないといけません。
- (対象)すべての家
- 排煙
- (対象)木造2階建の少し大きな家
(概要)
排煙の検討はどの建物でも必要ですが、木造2階建ての延べ床面積が200㎡(約60坪)以下であれば排煙の検討が不要になります。
吹き抜けを塞ぐことで延べ床面積が増え、延べ床面積が200㎡(約60坪)を超えた場合、この緩和が使えないので排煙の検討を全室に対してしないといけなくなります。
- (対象)木造2階建の少し大きな家
- 浄化槽
- (対象)浄化槽を使っている家
(概要)
浄化槽の人槽(大きさ)は床面積によって算定されます。延床面積130㎡(※)が5人槽と7人槽の境になるので、塞いだ後の床面積が規定値を超える場合は浄化槽も入れ替えないといけません。使う人数が同じなのに浄化槽を変えないといけないなんて何だか不思議ですね。
※市町村によっては独自の算定基準がある場合があります。ちなみに浜松市では145㎡です。
- (対象)浄化槽を使っている家
- 24時間換気
- (対象)すべての家
(概要)
吹き抜けを塞いで居室にする場合、外部の空気を室内に入れる給気口が必要になります。
また、吹き抜けを塞いだことにより換気経路が変わる可能性もありますので、24時間換気の計画を再度検討した方が良いでしょう。
- (対象)すべての家
- 竪穴区画
- (対象)準防火地域内にある3階建の家
(概要)
準防火地域内にある3階建て200㎡(60坪)を超える場合、階段や吹き抜けを壁で囲わなければなりません(竪穴区画)
吹き抜けを塞いで延べ床面積が200㎡を超えたら、階段室として階段を独立させ壁で囲わなければなりません。
- (対象)準防火地域内にある3階建の家
吹き抜けを塞いで部屋にするときに注意すること
吹き抜けを塞いで部屋をつくる場合、申請や建物強度以外にも注意しないといけないことがあります。
それは”塞がれた側の部屋(例えばリビングなど)は大丈夫か”
ということです。
具体的には、塞がれた側の部屋は
- 暗くはなりませんか?
- 狭さを感じませんか?
- 風はよどみなく通りますか?
- エアコンの容量が大きすぎになってはいませんか?
その他、『コンセントや照明は大丈夫かな?』など恐らく間取りや立地条件によって検討しなくてはいけない項目は様々だと思います。
少しでもマイナスになりそうな要素を事前に検討した上で吹き抜け塞ぎに望みたいですね。
まとめ
吹き抜けを塞ぐときに注意すべきことをまとめてみましたがいかがだったでしょうか?
長い間住んでいると段々生活スタイルも新築したときから変わってきます。
また、”憧れて吹き抜けを設けたけてみたけど思っていたより、、、”っというケースもあるかも知れません。
その際、吹き抜けを塞ぐということは選択肢のひとつとしてはよくあることです。
吹き抜けを塞ぐこと自体は比較的簡単にできますが、”正しく安全に”することは結構難しいです。
正しく安全なやり方で吹き抜けを塞いでいただき、より快適なお家ライフを過ごしていただければと思います。
最後までお読みくださりありがとうございました。
読んでくださった方の住まいづくりの一助になれたらうれしいです。
著者
加藤 晴康
KATOH Haruyasu
1974年静岡県浜松市生
一級建築士、宅建士、住宅性能表示評価委員ほか
大学の建築学科卒業後ハウスメーカー、ビルダー、工務店に在籍し研究開発や設計、工事監理や現場監督などに従事。2012年創業。2017年かとう建築設計事務所株式会社設立、代表取締役。設計は勿論、施工も自社で請け負うため“施工側も分かる設計事務所”としてお客様から支持される。得意分野は温熱環境、空気環境、音環境などの建築環境分野。