
こんにちは、加藤です。
年に1件程度とそれほど多くはありませんが、これから新築住宅を計画されているお施主様から、「新築の工事中に、第三者としてホームインスペクションに入っていただくことはできますか」というご相談をいただくことがあります。
当事務所では、中古住宅やリノベーション前のインスペクション(既存住宅状況調査)はお受けしています。ただ、新築工事中の第三者検査としてのいわゆるホームインスペクションは行っておりません。それでも、何か思うところがあって勇気を振り絞ってのご相談いただいたのだろうと思い、まずはお話を伺わせていただき可能なかぎりのお手伝いをさせていただいております。
この記事では、そのようなお話をお聞きするなかで新築工事中の第三者検査について、現役の建築士として思うところを書いていきたいと思います。
先に結論を書くと、第三者検査というサービスそのものを、私は否定しません。引っかかっているのは、お施主様がそれを必要だと感じてしまう状況のほうです。
工事監理は、本来であれば設計者(建築士)が担っているはずの仕事です。ところがその中身は、お施主様から見えないまま今日まで来てしまいました。見えないので、丁寧にやっている会社とそうでない会社の区別もつきません。業界の側は、この見えなさに長いあいだ甘えてきたのだと思います。第三者検査が静かに広がっているのは、その結果ではないか——というのが、この記事の結論です。
お施主様発注の第三者検査が、静かに広がっている
工事中に第三者が施工状況をチェックする、いわゆる「ホームインスペクション」のサービスは、ここ十数年で徐々に一般化してきました。国土交通省が定める既存住宅状況調査(購入前の中古住宅を対象とする調査)のインスペクションとは目的も法的位置づけも違い、新築工事の途中でお施主様自身が費用を負担して、独立した検査者に施工品質を確認してもらう、というものです。
もともとは工務店やハウスメーカーなどの住宅会社が自らの品質管理の一環として第三者検査を活用する例が多かったのですが、近年はお施主様自ら第三者検査を発注するケースが目立って増えてきました。「せっかく高い買い物をするのだから、念のため」という気持ちは、ごく自然なものだと思います。
問題は、その「念のため」がなぜ必要になったのか、です。ここからは、工事監理という仕事の中身と、それがお施主様から見えなくなっている構造を、順に見ていきたいと思います。
そもそも工事監理とは、誰が何をする仕事だったのか
工事監理という言葉は、建築士法および建築基準法に位置づけられた、れっきとした業務です。設計図書のとおりに工事が実施されているかを確認し、必要があれば施工者に対して是正を求める、というのが法律上の役割です。この役割を担うのは、原則として設計者(建築士)です。
もう少し噛み砕くと、工事監理とは「施主の代理人として、工事が図面どおりに正しく進んでいるかを見張る仕事」です。お施主様ご自身は施工の専門知識をお持ちではありませんから、設計者がお施主様の代わりに現場に立ち会い、品質を確認する——これが本来の姿でした。
ここで、よく混同される言葉があります。現場監督が行う「現場管理」です。読みが同じことから、現場では「監理」を皿管理(さらかん)、「管理」を竹管理(たけかん)と呼び分けることもあります。
現場管理は、工程や安全、原価、資材の手配など、工事を滞りなく進めるための業務で、担うのは施工者側です。一方の工事監理は、その工事が図面どおりに行われているかを確認する業務で、立場としては施主の側にあります。同じ現場を見ていても、立っている場所が違うわけです。この記事で扱うのは、後者の工事監理のほうです。
そして、この二つを同じ人が兼ねている場合があります。その話は、もう少し先で触れます。
設計施工分離型と一括型で、監理の見え方は変わる
ここで、住宅の作り方の違いに触れておきたいと思います。大きく分けて二つの形があります。一つは、設計事務所が設計と工事監理を担い、施工は別の工務店が請け負う「設計施工分離型」。もう一つは、一つの住宅会社(設計事務所や工務店)が設計から施工まで一括して請け負う「設計施工一括型」です。ほとんどの住宅会社は後者の「設計施工一括型」で大半を占めます。
設計施工分離型では、設計者はお施主様の代理人として、独立した立場で工事監理を行います。監理者と施工者が別の会社ですから、指摘や是正のやりとりが自然に生まれ、お施主様から見た監理の透明性は比較的保たれやすい構造です。この形態では、お施主様が別途第三者検査を発注する動機は、そもそも生まれにくいと思います。
一方、設計施工一括型では、設計と工事監理を担うのが、施工を行う同じ会社の中の建築士です。密なコミュニケーション、コスト調整のしやすさ、責任の一元化など、お施主様側にとってのメリットも大きい形態です。ただ構造として見れば、「自分の会社の工事を、自分の会社の建築士がチェックする」という関係でもあります。
設計施工一括にしかできないことが、あまりされていない現実
ここからは、設計施工一括と設計監理分離の両方を手がけている弊社だからいえる、実務の話を書いておきたいと思います。
設計施工一括の場合、現場監督と監理者が同じ人間であることが多く、施工に入る前の段階で、実際に手を動かす職人さんと直接打ち合わせをすることができます。ここは納まりが複雑だから先に寸法を確認しておこう、ここは間違いやすいから墨出しの段階で確認しますね——そうしたやりとりを施工前に済ませておけば、施工後に指摘してやり直す場面は目に見えて減ります。
一方、設計施工分離型では、事前の打ち合わせはもちろん行いますが、監理者が現場の職人と直接顔を合わせる機会は限られます。設計者から工務店の現場監督へ、現場監督から職人さんへ、と情報が伝わるあいだに意図が薄まることもあり、多くは施工が終わってから監理指摘をすることになります。指摘した以上は直していただくわけですから、やり直し工事が発生しやすい。職人さんにとっても、お施主様にとっても、決して気持ちのよいものではありません。
つまり、設計と施工が同じ会社にあるという構造は、本来であれば手戻りを減らし、工事を丁寧に進めるための強みになり得るものなのです。
ただ、実際には監理とは名ばかりの設計施工一括の住宅会社が一定数います。施工前に職人さんと図面を囲んで建物の性能など監理するうえで重要になるところの共通認識をもっておく——手間も時間もかかるこの作業を、省いてしまっている会社は少なくありません。構造としての利点はあるのに、それを使っていない。私は、ここに一番の問題があると感じています。
そして厄介なのは、お施主様の側から見て、その違いがまったく見えないことです。着工前に入念な打ち合わせをしている会社も、していない会社も、お施主様の目に映る風景はほとんど同じです。前者で未然に防がれた不具合は、そもそも起きなかったこととして、どこにも記録が残らないからです。
丁寧にやっているところと、そうでないところの区別がつかない。お施主様発注の第三者検査が広がっているのは、この見分けのつかなさへの不安が背景にあるのではないか。私はそう見ています。
監理料は、どこへ消えているのか

もう一つ、お金の面からも見ておきたいと思います。
設計施工分離型であれば、設計監理料は設計事務所への支払いとして独立した項目になっています。お施主様は「監理という仕事にいくら払っているか」を把握できますし、その対価として何をしてもらえるのかを問うこともできます。この形態でお施主様がさらに第三者検査を発注するなら、それは監理料を二重に払っていることになります。
問題は設計施工一括型のほうです。この形態では、監理にかかる費用が工事費のなかに含まれ、独立した項目として見えないことが少なくありません。つまりお施主様は、監理料を払っていないのではなく、払っている自覚のないまま払っている。そこへさらに第三者検査料を負担するとなると、実質的には二重の支払いでありながら、当のご本人には二重になっている実感すらない、ということが起こり得ます。
私が引っかかるのは、金額そのものよりも、この見えなさのほうです。監理という仕事が価格として提示されていないから、その中身も問われないまま来てしまった。第三者検査という別の商品が「見える価格」で登場したときに、お施主様がそちらを選ぶのは、ある意味で当然の帰結だったのかもしれません。

もう一つ、お金の面からも見ておきたいと思います。
設計施工分離型であれば、設計監理料は設計事務所への支払いとして独立した項目になっています。お施主様は「監理という仕事にいくら払っているか」を把握できますし、その対価として何をしてもらえるのかを問うこともできます。この形態でお施主様がさらに第三者検査を発注するなら、それは監理料を二重に払っていることになります。
問題は設計施工一括型のほうです。この形態では、監理にかかる費用が工事費のなかに含まれ、独立した項目として見えないことが少なくありません。つまりお施主様は、監理料を払っていないのではなく、払っている自覚のないまま払っている。そこへさらに第三者検査料を負担するとなると、実質的には二重の支払いでありながら、当のご本人には二重になっている実感すらない、ということが起こり得ます。
私が引っかかるのは、金額そのものよりも、この見えなさのほうです。監理という仕事が価格として提示されていないから、その中身も問われないまま来てしまった。第三者検査という別の商品が「見える価格」で登場したときに、お施主様がそちらを選ぶのは、ある意味で当然の帰結だったのかもしれません。
「業界側の傲慢」という自覚
ただ、ここまで書いてきた構造を放置してきたのは、ほかでもない住宅業界側の傲慢だとも思います。
お施主様の不安を解消する責任は、第三者検査事業者にあるのではなく、設計施工一括の形態でお施主様と契約している住宅会社側にあると、私は思います。「工事監理をしています」と契約書に書きながら、実際には現場に月一度しか行かない、お施主様に対して品質の根拠を示さない、監理報告書を形式的に済ませたり、最悪監理報告書すら提出しない。先に書いた施工前の打ち合わせも同じで、やればできる立場にありながら、手間を理由に省いてしまう。設計施工一括を選ぶ住宅会社ほど、自らを律し、監理の実質と透明性を担保する努力が求められる、というのが率直な思いです。
もちろん、設計施工分離型の設計事務所側に責任がないわけではありません。監理業務の中身をお施主様に見せない設計者、契約と実態が乖離した設計者もいます。「うちは分離型だから関係ない」とアグラをかいた瞬間、この問題は業界全体の問題であり続けます。私自身も設計事務所を営む立場として、この現状を他人ごととして書きたくはありません。
制度の側からも、変わろうとしている
こうした状況を、制度の側から変えようとする動きも出てきています。建築士法の一部を改正する法律案が、2026年(令和8年)7月22日に衆議院、7月24日に参議院で、いずれも全会一致により可決され、成立しました。
これまで戸建住宅では、ハウスメーカーや工務店など設計施工一括で工事を請け負う会社が主流で設計監理は工事請負契約の中に紛れてしまっていました。設計監理の書面契約が義務化されれば、お施主様ご自身が「私は誰にどのような監理をお願いしているのか」を意識される機会になります。個人的には、この改正が施主側にとって工事監理という仕事の存在に気づく契機になればと期待しています。
私たちが「監理してくれる相手」を見極めるには

見極めチェックリスト
- 契約書に工事監理の項目はきちんと書かれているか
- 監理の頻度や報告方法について具体的な説明があるか
- 過去の工事監理報告書を見せてもらえるか
第三者検査という選択肢そのものを否定するつもりはありません。工務店側が自社の品質管理として活用する第三者検査は、健全な仕組みだと思いますし、お施主様が安心のために選ばれることも、その方のご判断として尊重されるべきです。
そして、公平を期すために書いておかなければならないことがあります。どれだけ真摯に監理をしていても、見落としは起こり得ます。同じ人間が同じ現場を繰り返し見ていると、目が慣れてしまう瞬間が、正直に言えばあります。別の目が入ることに独立した価値がある——この主張自体は、まったく正当だと私は思います。医療でセカンドオピニオンが定着したのと、構造としては同じことです。
それでも私が引っかかるのは、第三者検査が「監理が機能していない前提」で選ばれている場合です。見落としを補う目的で重ねるのと、そもそも信用できないから別に頼むのとでは、同じサービスでも意味がまるで違います。後者が広がっているのだとしたら、それは検査の話ではなく、関係の話です。
ですから、もし今、家づくりの相手を選ぼうとされているお施主様がいらっしゃるなら、第三者検査を検討するのと並行して、設計者や工務店との関係も確認してみてください。契約書に工事監理の項目はきちんと書かれているか。監理の頻度や報告方法について具体的な説明があるか。過去の工事監理報告書を見せてもらえるか。など質問したときに、しっかり答えてくれるかみてみてください。
これらを尋ねたときの応じ方には、その相手の姿勢がよく表れます。もしどこかで引っかかるものがあるなら、第三者検査で不安を埋める前に、その引っかかりの正体を確かめておくほうが、家づくりの根本に向き合うことになると思います。
おわりに
工事中の第三者検査が広がっているという現象は、消費者の意識が高まった結果でもあり、同時に、建築業界が信頼を築ききれなかった結果でもあると思っています。
自分の設計監理業務についても、あらためて「お施主様から見てどう見えているか」を問い直す機会にしたいと、この記事を書きながら考えていました。信頼してと言葉でいうのは簡単です。大切なのは行動——工事監理だけでなく、業務全般そうですが、信頼を築くため今まで以上の行動が今後の住宅業界には必要だと思っています。
この記事を書いた人

加藤 晴康
(KATOU Haruyasu)
かとう建築設計事務所株式会社 代表取締役
一級建築士 / 宅地建物取引士/既存住宅状況調査技術者(インスペクション登録者)
1974年浜松市生まれ。大学の建築学科を卒業後、住宅業界での現場実務を経て2012年に独立。
木造を得意とし、設計のみならず、構造計算、断熱計算、そして現場管理に至るまで、一貫して自ら手がける稀有な建築士。
現場の細部まで熟知しているからこそ可能な、住まい手の想いに寄り添う丁寧な家づくりを行い、多くのお客様からご支持をいただいている。
家族構成: 妻、子の3人家族