長期優良住宅の基準と建物仕様

笑顔の家族

新築やリフォームを検討していると、『長期優良住宅』という言葉を目にする機会が多いと思います。
近年、2050年のカーボンニュートラルに向け省エネ性の高い長期優良住宅が注目されています。
ここでは普段、長期優良住宅を設計している一級建築士が新築一戸建て住宅の長期優良住宅の概要を深掘り&もう少し具体的に『長期優良住宅の基準を満足する仕様ってこういうものです』を実務者目線で解説していきます。

このような方におすすめ

  • 長期優良住宅をもう少し詳しく知りたい方
  • どんな仕様にしたら良いか悩んでいる方
  • 今まで長期優良住宅をやったことのない工務店などの実務者さん

基本的にこれから家を建てる方に向けて解説していますが、内容が少し細かくなってしまったので、今まで長期優良住宅をやったことのない工務店さんなど実務者さんが読んでもきっとためになりますよ。

はじめに

予備知識①|長期優良住宅とは

長期優良住宅は、長期にわたり良好な状態で使用するための措置講じられた優良な住宅です。長期優良住宅の建築及び維持保全の計画を作成し、所管行政庁に申請することで認定を受けることができます。(国土交通省HPより引用)

予備知識②|長期優良住宅の基準(概要)

長期優良住宅の基準は“国土交通省告示第209号”で定められています。
認定基準には一戸建ての住宅と共同住宅とがありますが、ここでは新築の一戸建ての住宅について解説していきます。
新築一戸建ての長期優良住宅には8つの評価基準があり、すべてを満たさなければなりません。

評価基準基準の概要
劣化対策劣化対策(構造躯体等)等級3 [★★★]
耐震性能耐震等級(倒壊等防止)
等級3 [★★★]若しくは等級2 [★★☆]
維持管理・更新の容易性維持管理対策等級3 [★★★]
省エネルギー性能断熱等性能等級5 [★★★★★☆☆]かつ
一次エネルギー消費量等級6 [★★★★★★]
居住環境将来道路や公園などができて立ち退くことが無いこと
(都計法第53条許可、建築協定などに該当する場合は要確認)
住戸面積延べ床面積75㎡以上
維持保全計画定期的な点検、補修に関する計画をたてること
災害配慮災害発生のリスクのある地域においては、そのリスクに応じた措置をとること
<長期優良住宅の基準(戸建て住宅)>

参考:「長期優良住宅の普及の促進に関する法律」の長期優良住宅認定制度の概要について(一般社団法人住宅性能評価・表示協会)

【本題】長期優良住宅にするためには

長期優良住宅の8つの評価基準のうち等級がある4つの性能(劣化、耐震、維持管理、省エネ)は『長期使用構造等』と呼ばれ登録性能評価機関にて審査されます。
その他等級のない4つの項目(環境、面積、維持保全、災害)については所管行政庁が審査します。
よく“長期の仕様・・・”と言われているのは長期使用構造等について言っていることが多く、建物の仕様はここで決まります。
本章では、性能の概念的なことだけではなく、実際『どういう仕様にすればよいか』ということを一般的な住宅仕様をベースにそこから性能別に付加すべき仕様などを記載していきます。

注)仕様は参考のため主だった一例を記載しています。
基準に適合していれば必ずしも記載の仕様にしないといけないというものではありません。

ベースとなる建物仕様

  • 建設地:浜松市(6地域)
  • 木造軸組み
  • べた基礎(基礎天端:GL+400)
  • 給水給湯はヘッダー工法

劣化対策

75~90年後でも住宅が住宅として使えるために土台や柱などの構造材、浴室や洗面脱衣、地盤、基礎、床下、小屋裏に対しての対策が必要になります。

  • (おおよその仕様)
    • 外壁通気工法
    • GLから1m以下に防腐防蟻剤現場塗布
    • 床下点検口の設置
    • 天井点検口の設置
    • 脱衣室の床下地:耐水合板
    • キソパッキン若しくは基礎の換気口
    • 小屋裏換気計算
      • 小屋裏換気部材の設置
      • バルコニー笠木部の通気材の設置

※最終的な仕様決定は小屋裏換気計算結果によります
※住宅性能表示制度の劣化対策等級3+αの性能が求められています

耐震性能

耐震等級2 もしくは耐震等級3が求められます。耐震等級は構造計算(許容応力度計算)や品確法の耐震計算によってきまります。
耐力壁の量が増えるだけではなく、建築基準法にはなかった水平構面などの考え方が加わるため、今まで出来ていたプランが出来ないことがあります。

  • (おおよその仕様・ルール)
    • 耐力壁を通常の(建築基準法レベル)の2倍くらい見込む
    • 外壁3面の吹き抜けは避ける
    • 基礎や火打ちなどの構造区画は6~8帖目安
    • 2階床は構造用合板厚24㎜以上の剛床(根太レス)
    • べた基礎主筋D13、ベース基本D13@200(大空間のとき@100~150)
    • 基礎人通口には補強用地中梁

※最終的な仕様決定は構造計算(許容応力度計算)や品確法の耐震計算の結果によります

維持管理・更新の容易性

構造躯体に比べて耐用年数の短い設備について、維持管理(点検・清掃・補修・更新)を容易に行えるようにします。

  • (おおよその仕様)
    • 基礎排水管貫通セット、給水給湯基礎貫通部さや管
    • 衛生設備(キッチン、洗面など)排水配管のじゃばら管禁止
    • 2階トイレなど水廻りに排水管の検め口設置

省エネルギー性能

断熱等性能等級の等級5と一次エネルギー消費量等級の等級6が求められます。
2つの性能が求められるのは『家の断熱をしっかりして省エネをしましょう』ということです。


断熱等性能等級5

外皮計算(UA値ηAC値)により決まります。
基準値は地域で違い、浜松市(6地域)の場合は、UA=0.6W/㎡K以下、ηAC=2.8以下
UA:熱損失係数、ηAC:夏季日射取得係数

  • (おおよその仕様)
    • 天井:高性能グラスウール16K相当 厚210㎜(105㎜×2重貼)
    • 壁:高性能グラスウール16K相当 厚90㎜
    • 床:押出法ポリスチレンフォーム3b 厚90㎜
    • サッシ;アルミ樹脂複合サッシLow-Eペアガラス

※最終的な仕様決定は外皮計算結果によります
※通気のとれないバルコニー屋根などは結露計算が必要になります

一次エネルギー消費量等級6

国立研究開発法人建築研究所から出されている“エネルギー消費性能計算プログラム(住宅版)”による計算で等級は決まります。
評価は暖冷房、換気、照明、給湯、創エネ(太陽光など)です。
一次エネルギー消費量等級6の基準値は太陽光など創エネを見込まず、BEI=0.8以下(省エネ基準▲20%)

※BEI(Building Energy Index)
BEIとは、エネルギー消費性能計算プログラムに基づく、基準建築物と比較した時の設計建築物の一次エネルギー消費量の比率のこと

引用元:環境省HP>用語集
  • (おおよその仕様)
    • 照明器具はすべてLED
    • 給湯は以下のいずれか
      • エコキュート(ヒートポンプ給湯器)
      • エコジョーズ(潜熱回収型ガス給湯器)
      • エコフィール(潜熱回収型石油給湯器)
    • 節水型水栓

※最終的な仕様決定は一次エネ計算結果によります

長期優良住宅にするときに難しいところ

長期優良住宅で難しいところは構造と断熱です。

構造については、地震などに対する耐震性を高めるために、強度や剛性を高める必要があります。
耐力壁の数をただ増やすだけではなく、その位置などについての検討やその他構造に関する検討が必要です。

また断熱については、省エネルギー性能を高めるために、断熱材の種類や厚さを検討するのは勿論、結露や通気についての対策も必要です。

このようにただ闇雲に何かを加えたりすればよい訳ではなく、耐震性や断熱性を考えて設計する必要があります。
最終的には構造も断熱も計算に裏付けられた性能が必要になってくるため、計算をした後でないと間取りや仕様が決定しないことも長期優良住宅を難しくしている一因かも知れません。

構造でOKが出ないとプランが決まらないし、断熱が決まらないと金額が決まらない。
だから長期優良住宅は面倒でやりたくないんだ・・・なんて声を長期優良住宅をやっていない実務者さんから聞くことがあります。

仕様規定という基準

住宅の基準には、性能規定と仕様規定という2つの規制のかけ方があります。
性能規定は性能での縛り、性能を満足していれば仕様は自由です。
一方仕様規定は仕様での縛り、決められた仕様以外は使えませんが指定されているので設計は楽です。

長期優良住宅は基本的に仕様規定ですが、耐震性能と省エネ性能に関しては性能規定があります。
前の段落でも書きましたが、長期優良住宅で難しいのは構造と断熱です。
しかし、最初に仕様規定に基づいて長期優良住宅として必要な条件を理解できれば、そこまで難しくありません

ただし、仕様規定で慣れたからといっていきなり性能規定の計算から入るのはお勧めできません。
なぜなら、後から仕様を変更しようとしたときに計算をまた最初からやり直さなければならないため、かなりの時間がかかってしまうからです。

そのため、家づくりの初期段階では仕様規定で大枠を検討し、段々プランが固まってきたら性能規定にて詳細をきめていくのが個人的にはおススメです。

性能規定仕様規定
耐震性能構造計算(許容応力度計算)品確法の耐震計算
(告示第1347号 第5_1-1(3))
省エネ性能断熱:外皮計算(UA値ηAC値)
一次:一次エネルギー消費量
断熱:誘導仕様基準(断熱、躯体、開口部)
一次:設備の仕様に関する基準
(告示第1347号 第5_5-1(3)ハ)
<性能規定と仕様規定>

費用

長期優良住宅にするといくらぐらいかかるのかは、住宅の規模、仕様などによって異なりますが、一般的には以下のような費用が発生します。

科目内容費用
・認定手数料(所管行政庁)所管行政庁(市や区)の認定料2万円程度
・技術審査費(登録住宅性能評価機関)長期使用構造等の確認(審査)費用5万円程度
・申請手数料(設計料)申請書や設計図書などの作成費用30万円程度
・性能強化費用(工事費)長期優良住宅に必要な工事費30万~70万円程度
(住宅会社の基本仕様によって異なります)

これらの費用は、長期優良住宅として認定されるために必要なものであり、一般住宅と比べて追加でかかるものです。
しかし現在、長期優良住宅にすることで補助金や税金、住宅ローンなど様々な優遇措置を受けられます。
これにより追加でかかった費用分が補填できるため、実質負担ゼロ(※1)でお金をかけず長期優良住宅にすることができます

※1:性能強化費用が住宅会社によって違うためすべての人が実質負担ゼロになる訳ではありません。

まとめ

長期優良住宅の基準とその仕様をまとめてみましたがいかがだったでしょうか?

これから家を建てる場合、何かと不安があると思います。
特に家の性能のことは分かりにくいですから自分で調べるのも限界があります。

長期優良住宅をベースに考えていけば性能面については安心できますし、その上でご自身の好きなテイストやデザインを加えてカスタマイズできれば愛着のある住まいにもなるので是非参考にしてみてください。

最後までお読みくださりありがとうございました。
読んでくださった方の住まいづくりの一助になれたらうれしいです。

参考資料


著者

自撮り

加藤 晴康

KATOH Haruyasu

1974年静岡県浜松市生
一級建築士、宅建士、住宅性能表示評価委員ほか
大学の建築学科卒業後ハウスメーカー、ビルダー、工務店に在籍し研究開発や設計、工事監理や現場監督などに従事。2012年創業。2017年かとう建築設計事務所株式会社設立、代表取締役。設計は勿論、施工も自社で請け負うため“施工側も分かる設計事務所”としてお客様から支持される。得意分野は温熱環境、空気環境、音環境などの建築環境分野。

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