介護保険の住宅改修 施工事例|費用と判断の理由まで公開する3件の実例

施工事例 浴室の手すり
介護保険の住宅改修について調べていると、制度の説明はたくさん見つかります。けれども実際のところ、「支給限度基準額の20万円で自分の家は足りるのか」「工事にどれくらい時間がかかるのか」といった、いちばん知りたいことは分からないままではないでしょうか。
このページでは、当事務所が手がけた介護保険の住宅改修を3件、費用と判断の理由まで含めて紹介します。2件は20万円の枠に収まった事例、1件は枠を超えた事例です。きっかけもさまざまで、2件はご家族の退院に合わせた工事、1件は加齢に備えて転ぶ前に整えた工事でした。並べて読んでいただくと「自分の家の場合はどのあたりか」の見当がつくはずです。
制度の仕組みや申請の流れについては、別記事「介護保険の住宅改修|支給限度基準額20万円でできる工事と申請の流れ」で解説しています。あわせてご覧ください。
事例1|磐田市の家|手すり12箇所を1日で
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 所在地 | 静岡県磐田市 |
| 工事内容 | 手すり設置 12箇所(玄関・廊下・建具まわり・トイレ・浴室・脱衣室) |
| 工事費 | 約20万円 |
| 制度 | 介護保険の住宅改修(支給限度基準額20万円の範囲内) |
| 工期 | 1日 |
きっかけはご家族の退院でした
ご家族が病気で入院され、退院の日程が見えてきた段階でのご相談でした。退院後は身体の片側に麻痺が残る可能性があり、それまで何気なく歩いていた家の中が、そのままでは危ない場所になるかもしれないという状況です。
介護保険の住宅改修は、担当のケアマネジャーが「住宅改修が必要な理由書」を作成し、申請手続きを進めてくださいました。当事務所は現地を確認し、手すりをどこに、どの向きで付けるかの提案と工事を担当しています。この役割分担が、住宅改修ではうまく機能します。
手すりの位置は、身体の状態を想定しながら決めます
磐田の家でも、退院後の身体の状態を想定しながら、玄関から廊下、トイレ、浴室まで、動線をたどって12箇所に手すりを設置しました。箇所数だけ聞くと多く感じられるかもしれませんが、実際に歩いていただくと分かります。手すりが途切れる場所が、いちばん危ないからです。

それぞれに必要な手すりを、動きが途切れないように配置しました。
設置した主な場所は次のとおりです。
- 玄関:上がり框での昇り降りと、靴の脱ぎ履きのための横手すり
- 廊下:居室からトイレ・浴室へ向かう動線に沿った横手すり
- 建具まわり:引き戸や開き戸を開け閉めする際に身体を支える縦手すり
- トイレ:便器からの立ち座り用の縦手すりと、出入りのための斜め手すり
- 浴室:洗い場の横手すり、浴槽をまたぐための手すり、出入口の縦手すり
- 脱衣室:浴室との出入りで身体を支える縦手すり
工事は1日で終わりました
手すりの設置工事そのものは1日で完了しています。壁の下地を確認して補強し、12箇所を取り付ける。工事としてはこの範囲です。
ここで知っておいていただきたいのは、時間がかかるのは工事ではなく、その前の手続きだということです。ケアマネジャーへの相談、理由書の作成、見積りと図面の準備、市への事前申請、そして承認を待つ期間。この流れを経てから、ようやく着工できます。
退院の日程が決まったら、工事の日程ではなく申請の日程から逆算する。これが住宅改修でいちばん大切な段取りです。
費用は20万円の枠に収まりました
工事費は約20万円でした。介護保険の支給限度基準額20万円の範囲内に収まりました。自己負担は所得に応じて工事費の1〜3割です。
12箇所という数を聞くと高額に感じられるかもしれませんが、手すりの設置は1箇所あたりの単価が比較的抑えられます。家中の動線を通して整えても20万円に収まるというのは、これから改修を考える方にとって現実的な目安になるはずです。
ただし、手すりの工事費は壁の中に下地があるかどうかなど、現場の状況によって変わります。下地がない壁には補強板の取り付けが必要になり、そのぶん費用が上がります。同じ箇所数でも金額は前後しますので、あくまで目安としてご覧ください。
なお、このお客様はその後回復され、現在は手すりに頼らずに生活されています。住宅改修は「介護のための工事」と受け止められがちですが、回復期の生活を安全に支える役割も担っています。
事例2|浜松市中央区(旧南区)の家|玄関スロープと車いす用の平場
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 所在地 | 静岡県浜松市中央区 |
| 工事内容 | 玄関前スロープ設置、屋外手すり設置、玄関前平場の拡張 |
| 工事費 | 約50万円 |
| 制度 | 介護保険の住宅改修(支給限度基準額20万円)+自己資金 |
退院に備えて、家に入れるようにする
こちらも退院に合わせたご相談でした。玄関前に段差があり、そのままでは車いすで家に入れないという状況です。
住宅改修というと室内の工事を思い浮かべますが、そもそも家に入れなければ生活が始まりません。屋外の段差解消は、優先順位としてはいちばん上に来ることがあります。

手すりの端部は、袖口が引っかからないよう下向きに曲げた形状を選んでいます。
屋外は雨に濡れるため、表面の仕上げも滑りにくさを考えて決めました。
スロープだけでは、玄関に入れません
この工事で費用が大きくなった理由は、スロープを登り切った先の平場を拡張したことにあります。
これは実際に車いすを使う場面を想像していただくと分かります。傾斜の途中で玄関ドアを開けようとすると、車いすは後ろに下がってしまいます。ドアを開ける間、平らな場所に止まって、体勢を保っていられるスペースが必要です。しかも玄関ドアは手前に開きますから、開いたドアをよけて車いすが待てるだけの広さが要ります。
さらに、門扉から入ってスロープに乗るまでにも向きを変える動作があります。スロープ本体・登り切った先の平場・その手前の取り付き——この3つがそろって、はじめて車いすで玄関にたどり着けます。
スロープの傾斜そのものにも制約があります。緩やかにするほど安全ですが、そのぶん長さが必要になります。限られた敷地の中で、傾斜と長さと平場のスペースをどう配分するか。ここが設計の判断どころでした。
20万円を超えた分は自己資金で
工事費は約50万円でした。介護保険の支給限度基準額20万円を超えていますので、超過分は自己資金での対応となっています。
「20万円に収めるためにスロープだけにする」という選択もありえました。けれども、平場のないスロープは、車いすでは使えません。使えない工事に20万円を使うより、必要な範囲まで作って超過分を負担する。ご家族と相談したうえで、そう判断されました。
住宅改修では、制度の枠に工事を合わせるのか、必要な工事に対して制度を使うのかという選択が生じます。どちらが正しいということはありませんが、判断するには「枠に収めた場合、実際に使えるものになるか」を見極める必要があります。ここは設計者が役に立てる部分だと考えています。
なお、浜松市には高齢者住宅改造費補助金という市独自の制度もあります。所得要件などの条件がありますが、介護保険で足りない場合の選択肢のひとつです。この制度も着工前の申請が必要ですので、検討される場合は早めにご相談ください。
事例3|浜松市中央区(旧西区)の家|新築時のスロープに、手すりを追加
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 所在地 | 静岡県浜松市中央区(旧西区) |
| 工事内容 | 玄関ポーチの手すり設置(階段・スロープ沿い) |
| 工事費 | 約15万円 |
| 制度 | 介護保険の住宅改修(支給限度基準額20万円の範囲内) |
| 工期 | 1日 |
新築のとき玄関ポーチは「階段+スロープ」
このお家は、当事務所が新築で設計施工させていただいた住まいです。
新築の時点で、玄関ポーチには階段と並べてスロープを設けていました。将来、段差の上り下りがつらくなったときのための備えです。
それから約2年。加齢とともに、階段とスロープの上り下りに支えが欲しくなった——それがご相談のきっかけでした。事例1・事例2のような退院に迫られた工事ではなく、転ぶ前に備える工事です。介護保険の住宅改修を使って、階段とスロープに沿った屋外手すりを設置しました。

階段とスロープを並べて設けてありますが、この時点では手すりは付けていません。

屋外用のアルミ製で、雨に濡れても劣化しにくい仕様です。
手すりは「必要になってから」でも間に合います
「今はまだ手すりまでは必要ないかな」と思っていても、数年後に「やっぱり手すりがあったほうが安心」と感じることは珍しくありません。
外部の階段やスロープに設置する手すりは、コンクリートに埋め込んだり、アンカーで固定したりするため、設置後に位置を変えるのは簡単ではありません。だからといって、「将来必要になるかもしれないから」と、今は使わない手すりまで先を見越して設置しておくと、何かあったとき邪魔になるカモとためらってしまうかも知れません。
住まいのバリアフリー化では、「先に作っておいたほうがよいもの」と「必要になってから付けたほうがよいもの」を分けて考えても良いと思います。
たとえばスロープのような「形」は、あとから作ろうとすると新たにコンクリート工事などを伴うため大がかりになりがちで費用もかかります。そのため、新築やリノベーションのときに将来の設置を見据えて一緒に計画しておくと安心です。
一方、手すりのような「道具」は、使う方の身長や身体の状態によって、使いやすい高さや位置などが変わります。
「将来のために、すべてを今つくっておく」のではなく、今の暮らしに必要なものを整えながら、後から対応できるものは残しておく。
それも、住まいを長く使っていくための一つの考え方です。手すりでいうと、手すりを取り付ける下地だけ最初に入れておき、手すり本体は必要になったら取り付けるということです。
今は必要ないなら、必要になったときに設置する。それでも十分に間に合います。
そんな考え方も、介護保険を上手に利用する方法の一つです。
新築を手がけた家だから、判断が早い
もうひとつ、この案件がスムーズに進んだ理由があります。当事務所が新築を手がけた家なので、ポーチの構造も仕上げも図面で把握できていることです。手すりの支柱をどこにどう固定するか、現地で迷うことがありません。
工事費は約15万円。支給限度基準額20万円の枠内に収まっています。事例1の12箇所と比べると箇所数は少ないのに金額が近いのは、屋外の手すりは支柱を立てて固定する工事になるためです。屋内の壁付けとは工事の内容が違い、1箇所あたりの費用は大きくなります。手すりの工事費は、屋内なら下地の有無、屋外なら支柱の固定方法など、現場の状況によって変わるものとして見ていただくのが実態に近いと思います。
3件から見えてくること
工事は短くても、段取りにはそれなりに時間がかかります。手すり12箇所でも工期は1日でした。けれども申請から支給までを含めると、相談開始から数週間見ておく必要があります。退院の日程が見えた時点でご相談いただくのが理想です。
20万円で足りるかどうかは、工事の種類で大きく変わります。手すりの設置が中心であれば、家中を整えても枠内に収まる可能性は十分あります(事例1・事例3)。一方、屋外の段差解消や車いす対応まで含めると、枠を超えることは珍しくありません(事例2)。なお、掲載している工事費はいずれも工事当時の概算です。物価の動向に加え、下地の有無や支柱の固定方法といった現場の状況によっても変わりますので、目安としてご覧ください。
備えは「形」を先に、「道具」はあとから。スロープや平場のような形は新築・リノベーションの段階で仕込んでおき、手すりは必要になった時点で、使う方に合わせて付ける。この順番なら、あとからの工事は介護保険の枠内に収まりやすくなります(事例3)。
ケアマネジャーと建築の役割は違います。生活面の見立てと理由書の作成はケアマネジャー、壁の下地の有無や手すりの位置、寸法の判断は建築側。両方がそろって、はじめて使える工事になります。
住まいの改修をお考えの方へ
かとう建築設計事務所は、静岡県浜松市を拠点に、住宅のリノベーション・リフォームとあわせて、グループホームやデイサービスなどの福祉施設の設計施工も手がけています。高齢の方の身体の使い方、車いすや歩行器の動き、介助する側の動線——福祉施設の設計で日常的に向き合っているこれらの視点は、そのままご自宅の改修に活きます。
退院を控えている、介護が始まった、親の住まいが心配——そうした段階でのご相談を承っています。介護保険の枠内でできること、枠を超えて整えたほうがよいこと。まずは現地を拝見して、判断の材料をお出しします。
この記事を書いた人

加藤 晴康
(KATOU Haruyasu)
かとう建築設計事務所株式会社 代表取締役
一級建築士 / 宅地建物取引士/既存住宅状況調査技術者(インスペクション登録者)
1974年浜松市生まれ。大学の建築学科を卒業後、住宅業界での現場実務を経て2012年に独立。
木造を得意とし、設計のみならず、構造計算、断熱計算、そして現場管理に至るまで、一貫して自ら手がける稀有な建築士。
現場の細部まで熟知しているからこそ可能な、住まい手の想いに寄り添う丁寧な家づくりを行い、多くのお客様からご支持をいただいている。
家族構成: 妻、子の3人家族
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